何事も起らない間

私はしあわせな錯覚に居て

時々自分が生きられる者のように感じたりする

平穏な時の波が

岸辺を歩く私達の膝頭を決して濡らすことがないように

波のない日々は私を

落胆からも

絶望からも

死の衝動からも護ってくれる

少しばかりの高床で

避難の安心に余裕を持て余しさえしながら


けれどひと度

予期せぬ大波が押し寄せて

避難小屋が足許からさらわれそうになると

急転直下の勢いで

私は生きていけない弱虫に変貌する

まだ起こっていない災難までも先取りし

不安と恐怖に震えだす

身をもってこの世で一番弱い者を実感する

そこには多くの幸福になる方法が

既に打ち消された形で並び

ご丁寧にもその上に一枚一枚

不可能のシールが貼られていく

もうだめ

できない

生きられない

助けて


この生き地獄には慣れが無い

毎回初めての人のように私はおびえ

全身で恐ろしい不幸に耐えている

今すぐ脱出できるならどうなってもいいと


繰り返し弱きにはまって私は気づく

損なわれない幸福だけに

自分を与えようとしてはいないか

明るく強くある時だけを許してはいないか

ここにいる私が本当に私のものであるならば

分け隔てなく時間を与えてやれるはずだ

尻をたたかず長い目で見守ってやれるはずだ

出ていけなんて言わないはずだ


荒ぶる鼓動の合間に

パニックの一瞬の隙に

辛抱強く私は自分を諭し続ける

大丈夫、おまかせしなさい

待ってようね

待ってあげようね

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